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けれど、ヒナは見てしまった。
樹の彼女と名乗る美少女の存在を、知ってしまった。
まるで物語に出てくるお姫様と王子様のように、ふたりはお似合いだった。
ふたりを見て、やはり同世代同士の恋愛が一番自然で相応しいのだと痛感した。
樹が自分に好きだと告げたことも、それは純然な『恋』ではなく、単純に年上の女性に対する『憧れ』に近い感情だったのだと、杏璃の存在がそれを証明したようで、ヒナは落胆した。
樹の想いを『弟』だからと突き放しておきながら、彼が相応しい女の子と恋に落ち、自分から離れてゆくことをヒナは拒んでいる。そんな自分勝手な想いに愕然とした。
それでも、傲慢ともいえる己の矛盾に目を背けず、ヒナは対峙しなければなければならなかった。
「……痛いよ」
胸元に置いた手をきつく握りしめた。
――――どうしよう、私、どうしたらいいの?
ヒナに芽生えた淡い想いは、新たな苦悩も彼女に与えた。
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