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「樹くんはすごく優しいんだよ。類ちゃん何も知らないくせに勝手なこと言わないで。樹くんはイジワルな類ちゃんなんかよりずっと男の子らしいんだから」
樹はエレベーターに乗る時や車に乗り込む時、女性をエスコートする紳士のようにヒナを先に行かせたり、巨大な鞄を持つ自分を気遣って持ってくれようとしたり、また、ヒナがひとりの時に何も言わず傍にいてくれたりもした。
些細な気遣い、さり気ない優しさを見せてくれる。
樹が本当はとても優しくて、そこらへんの男子よりもずっと男の子らしいことを、ヒナはちゃんと知っていた。
「……でも、いまさらそんなこと気付いても、遅いんだよね」
樹はいつも言っていた。
ヒナは鈍感すぎるのだと。
杏璃は樹の彼女だと言った。
樹は彼女ではない、違うのだと言っていた。すごく焦ってるみたいだった。
違うといった言葉は、彼の照れ隠しではないだろうか。
なぜならあんな可愛い子を好きにならないわけがない。
もし自分が男の子だったら、絶対好きになっていたと思うほどに魅力的な美少女だった。
ヒナは思う。
――――私なんかじゃダメ。全然敵わない。……敵いっこない。
全身から力が抜けてゆくようだった。
ヒナの吐く息が、全て溜息に変わっていた。
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