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「違う、違うんだよ、類ちゃんのことは、す、好きだけど、それは、」
どもりながらも必死になって『それは、友達としての感情』だと、誤解なのだと伝えようする。
しかし、遮るように樹の哄笑が響いた。
「ふっ、あははっ! なんだそれ? ヒナ、なに言ってんの?」
冥(くら)い激情の宿った双眸で、ヒナをまじろぎもせず見つめながら、樹は彼女の腕を乱暴に掴んで引き寄せた。
「ヒナに何度も言ったよな? ずっと、ずっと、ヒナが好きだって。それなのに、ボクよりもその男を選ぶのか? ……それはそいつが、ヒナよりも大きくて、ボクよりも力が強くて、大人な男だから? ……だからなのか?」
ヒナは狼狽するあまり身体を強ばらせたまま、その場に固まって身動きすら出来なくなる。
声すらも、喉の奥に蓋をされたみたいに何も出てこなくなってしまう。
肩を慄わせ、怒りを必死に押さえ込もうとする樹から視線が外せなくて。
ヒナは滲む視界で、樹が崩れてゆく様を見つめることしか出来なかった。
「……ボクだって! ヒナと同じ歳で産まれたかった! この男みたいにヒナを守れる男でありたかった! でもっ! 今のボクには全てが足りない……追いつかないっ! どう足掻いても……!!」
血を吐くような樹の叫びに、ヒナの目からは涙がひとしずく零れ落ちた。
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