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「ちが、違う! そうじゃない、違うんだよっ!」
ヒナは心の平静を失うほどに動転していた。
――――違う、好きと言ったのは友達としてで、彼氏としてじゃない。
そう伝えたくて。
けれど、恐慌を来したヒナの口からは、封印されたように伝えたい言葉が出てこない。
いつも冷静沈着な樹が平常心を失う姿など、今まで見たことなかった。
すれ違った想いの冷たさに、首筋がゾッとそそけ立つ。
何も伝えられない。交錯した想いが絡み合い、誤解を生んでしまう。
漠然とした恐怖が、ひたひたと足元に忍び寄ってくるようだった。
「なにが違う? なんで何も答えない? あんだけ一緒にいたじゃない。たくさんの時間、ずっとふたり一緒だった。それなのに、なんでヒナにはボクの心が届かない?」
樹の顔に絶望という名の亀裂が走る。
――――樹くんが壊れてしまう!
そんな切迫した思いに駆られたヒナは、掴まれた腕ごと樹を強く抱きしめた。
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