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ヒナはすぐに樹の後を追い掛けた。
けれど、あっという間に振り切られ、心が虚ろになったまま、気付くとヒナは自宅前にぼんやりと佇んでいた。
鉛のように重い身体を開けた扉の間に滑り込ませ、澱のようにどんよりと沈んだ気持ちを持て余しながら玄関先で大きな溜息を吐く。
拳に握った手のひらで、グッと胸を押さえつけた。
――――胸が……苦しい。
樹の千切れるような慟哭が頭を巡る。
――――あんな苦しい告白……痛い。痛いよ……。
心臓が鷲掴まれたようにぎゅっと痛む。
悲鳴をあげる胸をさらに強く押さえ込み、頭を垂らした。
ヒナの目からはまた涙があふれ出し、白いタイルが貼られた玄関の床にはらはらとこぼれ落ちてゆく。
「ごめんね、ごめんね、樹くん……」
彼は泣いていた。
感情を露わにして樹が泣く姿など初めて見た。
心が砕けてしまうようなあんな辛い告白、聞いたことがない。
自分は今までどれほど彼に辛い思いをさせてきたのだろうか。
樹に対し、ヒナは弟だから恋愛対象外だと線を引き、彼の告白を気の迷いなどと決めつけてしまっていた。
ヒナは思う。それは、逃げではなかったかと。
年が離れていても、例え相手が子供であったとしても、真剣にぶつかってくる相手の想いを無視してはいけなかったのだ。
彼の想いを軽視して踏みにじり、目を背け、ちゃんと考えてこなかった自分の浅はかさに吐き気がしてくる。
「……ふぇっ……」
力を失った身体が、壁にぶつかりふにゃりと頽(くずお)れた。
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