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頭から熱いシャワーを浴びながら、ヒナは先ほど母に告げられた言葉を反芻していた。
それは、ヒナに行動を促す言葉だった。
気持ちは口に出さないと分かってもらえない。
ヒナが樹の本当の気持ちに気付けなかったように。
樹の告白は、ヒナにとって衝撃だった。
ヒナと同じように、彼もまた年齢差に囚われて苦しんでいることに驚いた。
でも、樹にはあんなに可愛い彼女がいた。辛いが、とてもお似合いだとヒナは思った。
彼女がいるのに、今もなお自分のことを愛していると樹は告げた。
樹が吐露した狂おしい想いと杏璃の存在。
彼の言葉に嘘はなかったと思う。
杏璃の存在が、鋭い棘のようにして深く心に突き刺さる。
けれど、例え彼女がいても、樹が杏璃を好きでも、それでも。
自分の気持ちは寸分も変わらないとヒナは思った。
「杏璃ちゃんのこと、樹くんに聞こう」
行動しなければ、何も動き出さない。解決しない。
ヒナは今まで通りぬるま湯に浸るような、樹の想いを犠牲にした関係を続けるつもりはもうなかった。
謝って、誤解だと説明して、そして、言おう。
――――私、樹くんが好き。
その『好き』は、弟のように慈しんでいた淡いものから急速な変化を遂げた。
今までのような穏やかな親愛の情から、切なくて苦しいものに想いの色が変わってしまった。
「勇気ないけど……でも、ちゃんと言わなきゃ」
心に巣くう不安は拭えない。
でも、それでも。
「よし! 私、頑張る!」
バタバタと浴室から出たヒナの目には、強い輝きが宿って見えた。
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