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チンと涼やかな機械音が響き、ヒナはエレベーターを降りた。
50階のワンフロアは全て樹の自宅になっているので、扉は一つしかない。
その扉を見つめながら、ヒナはインターホンに指を伸ばす。
指先が緊張に震えていた。
「……ど、どうしよう。すごいきき緊張、してきた……」
声がどもり裏返ってしまう。
深呼吸を何回も繰り返し、グッと覚悟を決めてインターホンを押そうとする。
「……ダメだっ、心臓がうにょって口から出てきそうな感じがするっ」
ヘナヘナと頽(くずお)れ、玄関先で土下座のようにして突っ伏してしまう。
そのままヒナは立ったり座ったりを繰り返し、気が付いた時には10分以上時間が経過していた。
その時だった。
『……バカかお前ッ! いつまで玄関先で屈伸してるつもりだ! 扉は開いてる。さっさと入って来い!!』
「きゃ――――っ」
突然インターホン越しに聞こえてきた樹の怒声に、ヒナは思わず悲鳴を上げてしまい、尻尾を巻いて逃げ出しそうになる。
なんで自分がここにいることが分かったのかと、ドキドキしながら辺りを見回した。
視線を感じた気がして、ハッと斜め上を見上げてみる。
すると、防犯カメラと目が合った。
「え、これ、映ってる? 見えてるの?」
カメラに向かい呆然と呟くヒナに、
『見えてるよ。ずっとここから見てたし。アホだね、ヒナは』
またも声が聞こえて来た。
『入って来い』
いつもと変わらない彼の口調に、ヒナはホッとする。
そして、ヒナはもう一度深呼吸をすると、言われた通り、鍵が外された玄関扉を開け中へ入っていった。
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