Ⅶ ~交錯する想い~

21/29
前へ
/207ページ
次へ
「お、お邪魔します……」 「案外早かったね。もう少しグダグダ悩んでから来ると思ったのに」  玄関からは誰の姿も見えない。リビングから樹の声だけが聞こえてきた。  靴を脱ぎ、長く広い廊下をおずおずと歩きながら、ヒナは彼が居るリビングへと向かう。 「……樹くん、私が来ること知ってたの?」  ソファの上で足を組みながら、ヒナの問いに薄く笑んだまま、樹は答えた。 「あたりまえ。どんだけ一緒に居たと思ってるの。ヒナの行動なんて手に取るように分かるよ」  くつくつ肩を揺らす樹に、ヒナは怖じ気づいてしまいそうになる。 「ヒナ、紅茶が冷めちゃったよ。インターホン慣らすのに10分以上かかるとは思ってなかったから」  そう言いながら、樹は予想通りだと言わんばかりの態度で楽しげに嗤っていた。  彼が指差したカントリー調のテーブルには、ソーサーの上にお揃いのカップが置かれていた。まだ温かい紅茶からは細い湯気が立ち上っている。  カップを見つめたまま、ヒナは緊張のあまり言葉が出てこなくなる。  樹は笑いを止め、黙り込むヒナに気怠げな目を向けてきた。 「で? ヒナは何しに来たのかな」  ヒナを捉える樹の相貌は、冷たく傲岸で。  さらにヒナから言葉を奪う。  けれど、類とのことは誤解なのだとちゃんと伝えなければ。ヒナは喉を引き絞るようにして声を出した。 「あ、えと、るる、類ちゃん、類ちゃんね、」 「他の男の名前なんて聞きたくない。しかも、そいつはヒナの彼氏だしね?」  感情を消した冷たい声がヒナの言葉を遮った。  ヒナはバッと顔を上げて、思いきり首を横に振る。 「ちがっ、違うよ! 彼氏違う! あれは誤解なんだよ……!」  ちゃんと誤解だと説明しなければ。  そのためにここへ来たのだから。  ヒナはごくりと唾を飲み込んだ。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2646人が本棚に入れています
本棚に追加