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「あ、あのね、聞いて、樹くん。類ちゃんが言ったこと、誤解なの。私、るる類ちゃんの、彼女にしてやるって、い、言われたけど、でも、でもねっ、いいよって意味の『ハイ』は言ってないのっ」
伝えたかった言葉が、ヒナの口から途切れ途切れにあふれ出す。
樹は何も言わずに聞いてくれている。
ヒナはホッとして続けた。
「い、いきなり大きな声出されて、すごいびっくりして、何にも考えてなくて、とっさに出た言葉が『ハイ』……だったの」
「は? なにそれ」
訝しむような眼差しを向けてくる樹に、ヒナは必死で言い募った。
「だって、類ちゃんが、お、大声出すんだもん。嫌いなのに、大きな声で、耳元で、『答えはハイだけ』みたいな言葉、言うから、すごくびっくりして、つられてハイって、言っちゃったんだよ」
たどたどしかったが、伝えたかった言葉を吐き出して、ヒナは安堵の息をつく。
そして、緊張しすぎてカラカカラに乾いていた喉を潤そうと、目の前に置かれた紅茶に口を付けた。
口に含んだ瞬間、うっと顔を顰めてしまう。
少しブランデーが入ったそれは、ヒナの口には合わなかった。
けれど、せっかく樹が入れてくれたのだからと半分ほど飲み干した所で、ほこほこと身体が温かくなってくる。
緊張も少しだけ解けた気がした。
「ヒナはどうにも危なっかしくていけない」
大仰な溜め息と共に樹の疲れた声が聞こえてきて、ヒナは視線を上げた。
「あの類って男、ヒナがパニックになるの分かってて大声出したんだ。大きな声でヒナを脅かして、正常な判断力を奪って、さ」
うっかりしょーもない罠に嵌まったヒナはバカだと、樹はイライラと繰り返す。
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