Ⅶ ~交錯する想い~

22/29
前へ
/207ページ
次へ
「あ、あのね、聞いて、樹くん。類ちゃんが言ったこと、誤解なの。私、るる類ちゃんの、彼女にしてやるって、い、言われたけど、でも、でもねっ、いいよって意味の『ハイ』は言ってないのっ」  伝えたかった言葉が、ヒナの口から途切れ途切れにあふれ出す。  樹は何も言わずに聞いてくれている。  ヒナはホッとして続けた。 「い、いきなり大きな声出されて、すごいびっくりして、何にも考えてなくて、とっさに出た言葉が『ハイ』……だったの」 「は? なにそれ」  訝しむような眼差しを向けてくる樹に、ヒナは必死で言い募った。 「だって、類ちゃんが、お、大声出すんだもん。嫌いなのに、大きな声で、耳元で、『答えはハイだけ』みたいな言葉、言うから、すごくびっくりして、つられてハイって、言っちゃったんだよ」  たどたどしかったが、伝えたかった言葉を吐き出して、ヒナは安堵の息をつく。  そして、緊張しすぎてカラカカラに乾いていた喉を潤そうと、目の前に置かれた紅茶に口を付けた。  口に含んだ瞬間、うっと顔を顰めてしまう。  少しブランデーが入ったそれは、ヒナの口には合わなかった。  けれど、せっかく樹が入れてくれたのだからと半分ほど飲み干した所で、ほこほこと身体が温かくなってくる。  緊張も少しだけ解けた気がした。 「ヒナはどうにも危なっかしくていけない」  大仰な溜め息と共に樹の疲れた声が聞こえてきて、ヒナは視線を上げた。 「あの類って男、ヒナがパニックになるの分かってて大声出したんだ。大きな声でヒナを脅かして、正常な判断力を奪って、さ」  うっかりしょーもない罠に嵌まったヒナはバカだと、樹はイライラと繰り返す。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2646人が本棚に入れています
本棚に追加