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「ボクは、そんなバカで迂闊なヒナが嫌い」
唐突に、樹は断言した。
あれほどまでに好きだと告げていたその唇で、真逆の言葉を言い放つ。
ヒナに衝撃が走った。
じわじわとその言葉が身体を侵食してくる。
――――嫌いって言った? 嫌い? 私のこと、もう、嫌い? 私、バカだから、もう、呆れちゃった?
イヤだ。
嫌われるのは、イヤ。
――――お人形みたいに可愛らしい杏璃ちゃんのことが好きになったから、……もう私はいらなくなった?
ヒナは身体を小刻みに震わせながら呆然としてしまう。
イヤだイヤだと心は叫んでいる。
ぐちゃぐちゃに頭を掻き回されたみたいに、思考が纏まらなくなる。
動くことすらままならない。
ヒナの動揺をつぶさに観察するように、樹の静逸な双眸が自分を捉えていた。
「振り向いてくれないヒナなんて、もうやめる。ボクのことを好きって言う杏璃と付き合うことにしたから」
――――杏璃ちゃんと付き合う?
「……そ、んな……」
ショックで目の前が昏くなるようだった。
バランスを失った身体がふらりとよろめく。
盤石だった足元が、波に攫われる砂のように覚束ないものへとすり変わる。
ふらふらと立ち上がり、この場から離れようと無意識に樹から距離を取る。
それを見た樹の顔が不機嫌に歪んだ。
「逃げるな。――――そこから一歩も動くな」
絶対的な命令。
ヒナは思わず動きを止めた。
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