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「……ウソ。全部ウソだよ。なに信じちゃってんの? ホント、ヒナはバカだね」
ニヤッと底意地の悪い不敵な笑みが樹の唇に浮かぶ。
ヒナの涙がピタリと止まる。真っ白になった頭で、樹に浮かんだ酷薄な微笑を凝視した。
「今言ったことは、全部ウソ。ヒナを試しただけ。ボクがそう簡単にヒナを諦めるなんて、心外だよ。しかも、杏璃と付き合うとかあり得ない。考えただけで虫酸が走る」
くつくつと喉の奥で嗤いを噛み殺す。
ヒナの目が点になった。
「ボクに嫌いって言われて、杏璃と付き合うって言われて、ヒナ、すごいショックだったろ? なんでだと思う?」
「え?」
「ヒナ、もう分かってるんじゃない? ヒナ、ボクのこと、男として好きになってきてるんだ。杏璃と付き合うって言った時、ヒナ、オンナの顔してた」
組んだ足の太ももに片肘をつき、笑んだ唇を指先で囓りながら、そんなことを言う。
「ボクを奪われたくないって気持ち。そんなの恋愛感情しかあり得ない」
ヒナは、はっと顔を上げた。樹の言葉を理解した途端、ヒナの身体が火を噴いたように一気に熱を持つ。
「……ゾクゾクするほど色っぽいよ。無垢なヒナが、ボクを欲しがって嫉妬に穢れる顔」
恍惚とした表情で、樹はうっとりと囁く。
「……可愛すぎて、もうどうにかなってしまいそうだ。ヒナはどこまでボクを翻弄する気?」
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