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ひたと見据える樹の眸が、凄絶なほどの色香を放つ。
そんな眸で射貫かれて、狼狽したヒナの足がまたジリジリと後退し出す。
「逃げんな。それ以上動いたら、手加減なくここで抱いてやる」
瞬間、身体の中心にビリッと戦慄が突き抜けて、ヒナは動けなくなる。
樹の衝撃的な言葉に、赤くなったヒナの顔が一気に蒼白に変わる。
呼吸さえ止めて微動だにしないヒナを見て、樹は愉しげにくつくつと喉の奥を震わせた。
「ふふっ、ヒナはいい子だね。ねえ、言ってみな? ボクのことが好きって」
「……うぅ、え? あ、あれ?」
その時、突然全身から力が吸い取られるような感覚に襲われた。
視界がくにゃりと歪む。
力を失ったヒナの足が、膝からかくりと頽(くずお)れた。
とっさに目の前のテーブルに手を付いて、その場に倒れ込むのは防げたのだが、身体に全く力が入らない。
それどころか、身体を支える腕からも力が抜けてゆき、ガクガクと震えだす。
自分の身体に起こった異常事態に、ヒナは唖然と目を見開いた。
「ははっ。ヒナはいつまで経っても警戒心皆無なおバカさんなんだから。ホント、ボクは心配で仕方ないよ」
混乱を極めるヒナを見て、樹は我慢できずに爆笑する。
樹の不可解な態度にヒナは眉をひそめた。
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