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「ホラ言って? ボクのこと好きって」
期待のこもったキラキラとした眸に貫かれて、ヒナは蒼くなった顔をまた真っ赤にして固まってしまう。
ふたりは無言で視線を交わした。
けれど、いつまでもあわあわと意味不明な言葉しか発さないヒナに、次第に樹の双眸が危険な色を刷き、半眼になる。
樹の恐ろしいまでの表情の変化を間近で見てしまい、ヒナの顔からは再び血の気がスーッと引いてゆく。
――――怖いぃぃッ!!
「さっさと言え。『好き』だよ。……オラ言いやがれ」
ソファから立ち上がりゆっくりと近寄ってきた樹に、頤(おとがい)を掴まれグッと顔を持ち上げられる。
凶悪な笑みを浮かべる樹に上から見下ろされ、視線で脅され、言葉で威嚇され、ヒナは恐怖で背筋が凍り付く。
「うぅ、い、いつきくんのこと、わ、わらし、すすす、き……?」
ヒナは呂律が回らなくなってきた口で、告げた。
最後はちょっと疑問形になってしまったけれども、ちゃんと言えた。
もやもやとした落ち着かないこの想いの正体は、樹に向けられた恋愛的な「好き」という感情。
初恋すらろくに経験していないヒナが出した結論。
それは、幼い頃からずっと樹が大好きだというものだった。
「弟してじゃなく、ひとりの男として?」
ヒナは少し逡巡した後、コクリと頷いた。
恋愛の経験値とスキルが極端に低いヒナは、難しいことは分からない。
けれどもう、認めるしかないと思った。
ウソや誤魔化しなんて樹相手に通用しない。
彼の言う通り、この気持ちは樹を好きという恋愛的感情なのだと、ヒナは素直に受け入れた。
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