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「そそそ、そういうのは、ははは、ハタチになってからッ!!」
「……それ、何の拷問? あと8年待てって? 却下だよ」
ヒナの必死な声にきっぱりと否を告げた樹は、彼女のトレーナーに手を忍び込ませようとする。
素肌を這う樹の手のひらの感触に、思いもしない急展開に、パニックに陥ったヒナは声を限りに叫んだ。
「や――――っ! ムリムリムリダメダメダメ、ぜぜぜ全部ハタチ……ハタチになってからだからぁ――――っ!!」
「……なにそれ。お酒のCM? ヒナがはたちになるまで待てってこと? んー、それも却下かな。いろんな意味で、もー限界」
「……ム、リだよぉっ、いつきく、スキだけど、できな……っ、ごめんなさ、ゆ、るして……も、かえる、かえりた、いぃっ」
完全に泣きが入ったヒナの声。
けれど、樹は容赦なかった。
「それこそムリだよ。だってもう、ヒナ動けないでしょ?――――ヒナ、飲んじゃったからね。ハルシオン入りの紅茶」
最後の言葉は絶対に聞こえないだろう小さな声で、樹は呟く。
「あ……」
――――あれ……、聞こえない?
急速に霞(かす)み始めた意識の中、ヒナは疑問に思った。
自分の身体に、今、一体何が起こっているのかと。
耳に蓋をされたように、樹の声が突然聞こえなくなった。
焦点が合わなくなる視界で樹の姿を捉えようとするけれど、それすらひどく難しい。
重い瞼が今にも閉じてしまいそうになる。
戦慄く唇は、もう声を発することすら出来なくて。
弛緩する身体は、まるで鉛を詰め込まれたみたいに動くことすらままならない。
五感の全てが急激に黒く塗りつぶされてゆくようだった。
グッタリと動かなくなったヒナを見て、樹の身体がくくっと揺れた。
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