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「ごめんね、ヒナ。今すぐにヒナを手に入れておかないと、ボクの精神(こころ)がもちそうにないんだ。今回みたいに他の男に奪われるかもとか、本当にムリ、限界。……ボクはもう、ギリギリなんだよ」
樹の言葉を脳裏に留めることなく、ヒナは彼に抱かれたままコトリと頭を垂らした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
固く閉じたヒナの目尻から、たまった涙が頬を伝う。
薄く開いたヒナの唇に、樹は自分の唇をそっと重ねた。
ヒナは目覚めない。きっと明日の朝までは目覚めないだろう。
口付けながら、樹はふっと口角をつり上げた。
……即効性の高い睡眠薬・ハルシオン。
飲んだ後の記憶が曖昧になってしまう強力なものだ。
机の戸棚に隠してある劇薬。樹はそれを先ほどの紅茶に混ぜた。
薬の味はブランデーで消し、誤魔化して。
「可愛いボクのヒナ。扉のない鳥籠に入れて、一生大切にしてあげる」
――――だから。
腕の中でくたりと力を失ったヒナを、樹は軽々と抱き上げた。
意識を失い無防備に身を預ける彼女に、樹は喉の奥で嗤いを噛み殺す。
「ヒナをもらうよ」
子供とは思えない低く甘い音色で囁くと、樹は大切な宝物を扱うようにしてヒナをだき抱え、そのまま寝室へと姿を消した。
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