Ⅷ ~疑惑~

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Ⅷ ~疑惑~

Ⅷ  鳥の小さなさえずりが頭の上を流れるように通り過ぎて、混濁していたヒナの意識がゆっくりと覚醒し出す。  重い瞼をうっすら持ち上げてみると、そこは朝を告げる鳥の声とは真逆な漆黒の世界だった。  墨色の遮光カーテンが見事に光を遮断し、辺りに夜のような闇を創り出している。  まだ夜なのかと思い、けぶる睫毛ごとまぶたが重力に従いすとんと落ちてしまう。  強烈な眠気がまぶたにのしかかり、意識を手放しそうになる。  夢とうつつの間をゆらゆらとさ迷っていたヒナは、ふいに違和感に気付いた。  ぎゅうっと身体を包み込む暖かくて心地よい、なにか。  ――――これはなに?  眠気に抗ってヒナは目を開けた。気怠い身体を少しだけを起こしてみる。 「……えっ」  驚きに思わず声が出てしまい、慌てて口を押さえ込む。  心地よいなにかの正体は、ヒナを抱きかかえて眠る樹だった。  強制的に覚醒のスイッチを入れられたように、ヒナはバチッと目が覚めた。 「え、え? ……な、なんで?」  現状を把握出来ず、唖然とした声が出てしまう。  抱き枕を抱えるようにして身体に腕を回され、ヒナの下肢は樹の足に挟み込まれていた。  ガッシリと拘束されて動けない。  心臓が胸の外へ飛び出すみたいにバクバクと激しい鼓動を打ち、全身の血が逆流したように、熱が顔に集まり出す。  その時、あっと声が漏れた。  シーツの隙間から見える自分の身体が、ブラすら着けていない上半身裸だということに気づき、背後から金属バットで頭を殴られたような衝撃に襲われる。 「なななっなんでハダカ!? ……あっ、また、じんましんが……」  血の気が失せた顔で、ヒナは身体に浮いた発疹を見下ろした。  せっかく治りかけていたじんましんは、また新たに発疹の範囲を広げているようにみえた。  戦々恐々と震える指先でシーツをペロリと捲ってみて、ギャッと潰れたヒキガエルのような悲鳴を上げてシーツを戻す。  ヒナは上半身だけでなく、下半身までもなにも付けていなかった。
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