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「あ、……でも、あ、杏璃ちゃんは?」
「は? なに、勘違いしたままなの? めんどくさー」
鬱陶しそうに前髪を掻き上げながら、樹は枕元に置かれたスマホに手を伸ばした。
そして、おもむろに電話を掛ける。
「あ、もしもし、杏璃? あのさあ、お前のせいで、話、ややこしいんだけど。さっさとヒナに彼女じゃないって誤解解いてくんない? ……さもないと後が怖いよこの性悪女が」
最後のセリフはヒナには聞こえないくらい小さな低い声で恫喝する。
樹は笑顔を崩さないまま話していたので、ヒナは彼が何を話しているのか気付かなかった。
「はい、杏璃がヒナに、ごめんねって」
そう言うと、樹は喜色満面でスマホを手渡してくる。
ヒナは恐る恐るそれを受け取って、言われるがまま耳に当てた。
「あ、あの、ヒナです。も、もしもし?」
『あ、ヒナさんですか!? 先日はすいませんでした! あれはちょっとした意趣返し、イジワルで言っただけで本気じゃないんです! あたしあんな鬼畜野郎の……いや、樹くんの彼女違いますから! 死んでもゴメンです、いやマジで! ホント、嘘吐いてゴメンナサイ!』
あたし引っ越しの準備で忙しいんで! と、杏璃は流れるように吐き捨てると、一方的にブチッと電話を切ってしまった。
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