Ⅷ ~疑惑~

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 狐につままれたように、ヒナは呆然とスマホを見つめてしまう。  固まったまま動きを止めてしまったヒナからスマホを掠め取った樹は、再度、同じ質問を繰り返した。 「ね? これでボク達を阻む障害はなくなったってわけだね。ボクの彼女はヒナだけ。ヒナの彼氏もボクだけ。でしょ?」  俯き加減のヒナに視線を合わせるように、樹は覗き込んできて言葉を重ねる。  ヒナは促されるまま、こくりと頷いた。  ――――えと、あの可愛らしい杏璃ちゃんは彼女じゃなくて……。で、私が彼女? 樹くんの?  私、告白したの? 酔っ払って好きとかいっちゃったのかな? と、難しい顔をして考え込むヒナに、ムッと眉を顰めた樹ははっきりと言い切った。 「よろしい。ちゃんと覚えていて。ヒナは昨日、はっきりボクに言ったんだ。ボクのことが好きだって。もちろん恋愛感情の『好き』だから。忘れないで。ヒナはもうすでに、ボクのモノになったんだよ」  それは、ヒナの戸惑いを吹き飛ばすほどの強制力を持った強い言葉だった。  ヒナはおずおずと樹を見上げた。 「ヒナ、返事は?」 「……うぅ、ハ、ハイ……」  有無を言わさない強い眼差しに、ヒナは逆らうすべなく素直に頷いた。  告白したという記憶が曖昧だったため戸惑いはしたものの、そこにはイヤだという拒絶の思いはなく、むしろ、在るべき所に落ち着いたような、パズルの残りのピースがピタリと嵌まったような、そんな安堵に似た高揚感がヒナにはあった。  ――――私は『もうすでに』、樹くんの彼女になってたんだ。  ボボボッと顔を染めたヒナは、唐突に「学校の用意しなきゃねっ」と話を逸らせて立ち上がった。  すると樹は、あっと気の抜けた声を出し、 「もう昼回ってるよ。今日はガッコ休んでゆっくりしよっか」  なんて言い出した。 「……ええ!? ちょ、」 「お腹すいたねー。何か作るからそこで待ってて。でも、その前に」  樹はヒナの抗議の声を無視すると、ベッドから降りて近づいてくる。  そして、ヒナに視線を合わせながら、彼女の肩に手をかけクッと背伸びした。
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