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「……ふざけんな、そんなこと誰が聞いた。ボクが聞きたいのは、ヒナの全てを愛していいかってことなんだけど」
先ほど彼の眸に浮かんでいた切ない色は綺麗に跡形もなく消え去って、代わりに貪婪(どんかん)な光が煌めく。
彼の地の底から響くような恐ろしげな声は、そこらのヤンキーも真っ青になるほどにドスの効いたもので、酸欠でぼんやりしていたヒナの意識が一気にクリアになった。
「チッ。このやろ、そんな情事後みたいな色っぽい顔でこっち見んな。……歯止めきかなくなるだろーがっ。……クソッ」
イライラと溜息を吐いた樹は、そのままヒナに背中を向け寝室の扉をガチャリと開ける。
ヒナは、あっと手を伸ばした。
「いっ、樹くんどこ行くの!?」
「……あ? それ言わす? このままじゃおさまんないから……シャワー浴びてくんだよ」
切なさのにじむ眼差しで睨まれて、乱暴にバタンッと扉を閉められてしまった。
「……へ?」
『おさまんない=シャワーを浴びる』の方程式が解けなくて、ヒナはしばらく呆然と固まってしまっていた。
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