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「ヒナ、簡単だけどブランチ出来たよ。座って」
タオルで髪を拭きながら洗面所から出てきたヒナに、お皿を持った樹が声を掛けてくる。
テーブルには、すでに出来上がった食事が並べられていた。
フレンチトーストに数種のフルーツ、添えられた生クリームの上にはミントの葉まで飾られている。ココットにはヒナの好きなハムサラダが綺麗に盛られ、オニオンスープが湯気を立てていた。テーブルを向かい合う形で、樹にはコーヒーとヒナにはオレンジジュースが置かれていて。
自分の好みを知り尽くしたラインナップだとヒナは感動してしまう。
「ヒナの好きな生クリームも添えてあるよ。ね? ボクを彼氏にして良かったろ? 一生尽くすよ、ボク」
ふふっと笑う樹の嬉しそうな顔に、ヒナは思わず見惚れてしまった。
意地悪なところも多分にある樹だけれど、彼の言う通り、好きな女性には尽くすんだろうなとヒナは漠然と思う。
恐らく、樹は情が深いのだろう。
ヒナは樹が作ってくれたフレンチトーストをフォークで切り分けながら、モヤモヤした思いを苦笑で誤魔化した。
「そう、だね。樹くんはそうだよね。でもね、私……」
――――私なんかでいいのかな。ずっと年上だし、これから先、樹くんにはもっといい出会いがあるかも知れないのに。……その時は、遠慮なく手放していいからね。
年上として、近い未来に出逢うかも知れない素敵な人との恋愛の可能性まで奪えない。奪いたくない。だから。
ヒナの口からそんな消極的な言葉が出そうになる。それを途中で樹が遮った。
「『でも』は嫌い。これから先、ヒナはずっとボクの女だよ。ヒナが嫌がっても、絶対手放してなんかやらない」
反論は許さないとばかりに、樹は獲物を狙う猛禽類のような鋭い眼差しでヒナを射る。
焦げ付くような焦燥を滲ませた彼の双眸は、『逃げたら許さない』と語っているようで。
びっくりして目を丸くするヒナに、樹は本音を笑顔で隠してしまう。
「さ、食べちゃって。冷めちゃうよ。ね?」
笑顔で見つめてくる樹に戸惑いながらも、ヒナはコクりと頷いた。
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