Ⅷ ~疑惑~

12/15
前へ
/207ページ
次へ
「とにかく。ヒナのじんましん見せてもらったけど、痒みはないみたいだし、病院なんて行かなくて大丈夫。今は季節の変わり目だし、色々あったから疲れもたまってたんじゃないかな。これは一過性のものだから、しばらく休養してたら自然に治るよ」  樹は確信に満ちた顔で言い切った。  樹が言うと本当に大丈夫な気がしてくる。  ヒナは、じんましんなんて本当に小さな頃しか経験がないので、当時の記憶も曖昧だった。  そのため、樹が自信を持って「大丈夫だ」と言えば、素直に納得してしまう。  けれど、今回は発疹が前より悪化していたので、ヒナの不安は簡単には拭えなかった。 「なんかこの前よりもひどくなってるんだよ。看てもらうだけだから、さっと行ってくる」 「……行かなくていいって言ってんの」  スッと表情を消した冷たい顔で、樹は脅すようにして畳みかけてくる。  ビクッと目を見開いたヒナに、次の瞬間、樹から剣呑な棘が嘘のように消え去り、爽やかな笑みが顔いっぱいに広がった。 「大丈夫。安心していいよ。顔とかにも発疹が出るようなら、その時は一緒に病院行こう。でも、今はとりあえずゆっくり休んでな」  いきなり樹に睨まれてビックリしたけれど、大丈夫とか安心していいとか言われると、無条件にホッとする。  ――――樹くんの言うことは、常に正しい。  ヒナは長い時間を掛けて、樹にそうすり込まれている。そのため、樹が確信を持って言うセリフは、『そうなんだ』と無条件で納得してしまうのだ。  それは、ヒナの習性を熟知した、彼女に対する樹の操作術でもあった。 「うん、そうする。でも、1回ウチに戻るよ」 「なんで? ここにいなよ」  ぷ、とふくれっ面で、樹はここにいろと繰り返す。  ヒナは少し考えて、緩く首を振った。 「ありがとう。でも、服も着替えたいから」 「そう。じゃ、ボクも一緒についてく」  そう言うと、樹はヒナと共に玄関へと向かった。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2646人が本棚に入れています
本棚に追加