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高層階用のエレベーターを降り、一階エントランスへ着く。
ヒナは3階なので、低層階用のエレベーターに乗り変えないといけないのだが、いつものクセで二人は非常階段へと向かった。
歩きながら、ヒナは落ちつきなく視線を自分の腰へ落とす。
――――樹くん、なんで掴んでるのかな……?
ヒナは困り顔で首をひねる。
ヒナの腰、スカートのベルト部分を樹がガッシリと掴んでいたのだ。
これではまるで、警察に連行される犯人のようだ。
訳がわからないと、ヒナはこっそり溜息をこぼした。
ちらりと樹をうかがったら、これ以上ないくらい上機嫌に微笑まれる。
ヒナはおや? と違和感を感じた。
――――なんだろう。なにかがおかしい……?
何かが引っかかっる。ふに落ちない。
それはまるで、同じ大きさと断片の、二種類の異なるパズルを同時に組み立てているような、そんなしっくりこないもやもやとした気分がヒナの顔を暗くする。
しっくりこない原因は何だろうと考えた時、ヒナの頭に疑問の数々が浮かび上がってきた。
まず、今は非常階段を上っているのだが、ちゃんと歩けない。
歩く度に、下腹部からズキンとした鈍い痛みがヒナを襲う。
この痛みはなんだろう。
気を遣いながら歩いていたため、速度は普段より明らかに遅いはず。けれど、樹は何も指摘してこないのは何故だろう。いつもなら「遅いっ。グズグズすんな」くらい言ってきそうなものなのに。
それに、下肢に感じる不可解な感覚も気になる。
ヒナは自分の左手首に目を向けた。
柔らかい皮膚に浮いた赤い痣。
また身体中にじんましんが出来てしまった。けれど、なぜじんましんなのに痒みがないんだろう。
ヒナに出来たじんましんに関して、やけに純人と類が反応していたことを思い出す。
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