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――――エロガキ、すぐに手を出す。うぅ、確かに。すぐに抱きついてくるし、キキスしてくるし……キスマーク疑惑は、あっさり躱された気がしてモヤモヤするけど……おおむね類ちゃんの言う通りだよ。
反論の余地はないと、ヒナは「うぅー」とくぐもった呻き声を上げた。
でも。と、ヒナは樹を弁護する言葉を心で呟く。
非常階段で樹にキスされた時、ヒナは樹を問い詰めた。
口にできない不埒なコトを、自分の意識のない間に致したのでないかと。
ヒナの言葉に樹はきょとんと目を丸くして、ポロリと涙をこぼした。
『ヒドい、ボクを疑うの? 介抱しただけなのに……キスマークをつけようなんて考えたこともない、そんなもの、作り方すら知らないボクなのに……疑うって言うんだね?』
ポロポロ泣き出した樹に、ヒナは焦った。
樹はしくしく悲しげに泣き伏しながら言ったのだ。
ヒナが酔ってしまった晩、手など出してはいないと。
身体に感じる不調も伝えた上で、絶対に違うと断言したのだ。
ヒナは樹の言葉を信じることにした。
普段から意地悪な樹だが、そこまで卑劣なことは絶対しないという確信もあった。
樹のことを信頼しているし不埒なことはやっていないと信じているが、小さな不穏の芽はしつこく根を張っている。
百歩譲って、不条理で理不尽な思いに蓋をして押し殺した上、かなりの葛藤と譲歩を必要とした、まさに究極の選択だったけれど、例え、えっちなことを最後まで、ヒナの無意識下でされていたとしても。
腹は立つし卑怯だと思うが、それでもきっと、最終的には許してしまう気がする。
さんざん懊悩を繰り返した挙げ句、最終的にヒナはそう結論を下した。
それに樹は、あれから何度となく誘惑してきたけれど、頑として首を縦に振らないヒナに対して、ガックリと肩を落としながらも無理強いすることは決してなかった。
だからこそ、樹の『なにもしてない』という言葉を信じることが出来たのだ。
なんだかんだ言いながら、結局ヒナには、樹のことが好きだという答えしか出てこない。
その気持ちは変わらない。
変わらないと言うことを自覚した、怒濤の3日間だった。
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