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その日の放課後、ヒナは帰宅前に購買部へと寄り道をしていた。
新しいキャンパスを使い、樹にアクリル画を教えようと思い立ったヒナは、必要なものを買い揃えるためにやってきたのだが。
「こんにちはー、あ、あれ?」
購買部の中をのぞき込む。
いつもいる販売員のおばさんはおらず、しんと静まりかえっていた。
購買部のおばさんが戻ってくるまで待っていようとベンチに腰掛け、ヒナは雑然と茂る木々をなんとはなしにぼうっと眺める。
購買部のすぐ隣には、手入れのされていない雑木林があるため、奥まった場所へ足を運ぶものは滅多にない。
ざわざわと梢を揺らしながら、少しだけひんやりとした風がヒナの頬を撫でてゆく。風が流れてきて方へ視線をやると、小振りな紅葉の木が少しだけ赤く色づいていた。
その時、風と共に人の声が聞こえた気がして、ヒナはハッと顔を向けた。
辺りをキョロキョロと見回してみる。
人の気配はない。風が梢を鳴らす音以外、物音も聞こえてこない。静寂だけが辺りに満ちて、茫々としてもの寂しいばかりだった。
――――気のせいだった? でも……。
逡巡したヒナは、恐る恐る声のした方と近寄っていく。
踏みしめた足元の草が、さくさくと軽い音を立てる。
近づくにつれ、先ほどの声は空耳ではなかったと確信した。
今度ははっきりと聞こえたのだ。言い争うような、人の声が。
そっと草をかき分けて、声が聞こえて来た向こう側をそっと窺う。
――――えっ!?
ヒナはサッと身を潜めながら、息を呑んだ。
目の前に居たのは、樹とクラスメイトの純人だった。
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