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純人の後に続いた樹は、校内へと入り、人気のない購買部傍にある鬱蒼とした雑木林のような場所まで連れてこられた。
無言のまま、樹は激しい怒りを湛えた双眸で自分を睨みつける男を一瞥する。唇に、うっすらと笑みを刷きながら。
「で? 話って何かな?」
可愛らしく小首を傾げながら、樹はいとけない仕草で純人に問う。
純人は嫌なものを見たような面持ちで舌打ちした。
「やめろ、気持ち悪い。猫かぶりがオレに通用すると思うな」
「ふふっ。怖い顔」
――――間宮純人。
この男が来ることは分かっていた。
必ずコンタクトを取ってくるだろうと、樹は待っていたのだ。
――――彼とは大切な交渉をしなければならないから。
クスクス肩を揺らしながら、樹は純人を見据える。
純人は、爆発を押さえ込むような怒りを全身に纏っていた。
「……お前の担任。飯島凜。あの人に、お前何した?」
「えー、何のことかな? センセ、お休みしてたよねえ? オニイチャン知り合いなの?」
偽りの仮面を被り、無垢な顔を純人に向ける。
彼の怒りを煽ると分かっていて。
樹の予想通り、純人の眸には獣のような危うい光が宿っていた。
「ふざけんな! お前、凜に……写真を渡したな? それを河居に渡すよう頼んだ。……お前、知ってたな?」
「何を?」
首を傾げる樹に、純人は歯噛みする。そして、唸るような低い声で言った。
「……凜の過去だ」
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