Ⅸ ~樹vs純人~

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「ぷっ。くくっ、必死な顔だね。それに、すごく怒ってる。それは、大切な人を守れなかったから? ……『また』?」  無邪気な子供の仮面を剥がし、樹は嘲笑を浮かべた顔を純人へ向ける。  瞬間、純人の怒りが鋭く尖った。 「……貴様っ」 「アンタの予想通り。ボク、知ってるよ。11年前に起こった事件の詳細全て。アンタ、彼女のそばに居たのにね。守ってあげられなかった。彼女が壊される様を、ただじっと見てるだけだったってこと」  樹の言葉に彼の双眸が大きく揺れる。  固く握られた拳が樹の挑発の言葉に小さく震えていた。 「俺があの場にいたことまで……知ってたのか」 「うん。知ってたよ。11年前に世間を騒がせた女児連続暴行事件。最後の犠牲者は、飯島凜。オニイチャンの彼女だ」  ゆっくりと、当時を思い起こさせるように樹は言葉を紡ぐ。  純人の顔から血の気が失われ蒼白になってゆく。  樹は小さく嗤った。 「間宮純人、アンタはあの時まだ6歳だった。夏祭り当日、事件が起こった日。アンタは彼女のそばに居たのに、守ろうとしたのに、守れなかった。ガキがどう足掻いても、大人の男の力に敵うはずもないからね。……悔しかったよね。乱暴されて心を壊した彼女を、アンタは今までずっと守ってきたんだろ? でも、『また』守れなかった」  樹は観察するようにじっと純人を見つめる。  手に入れた事件の詳細な情報の中で、当時純人は飯島凜を救うべく犯人に向かっていき、全治一ヶ月の大けがを負ったとあった。  愛する人を守れなかった悔しさ、辛さを、この男は血の涙を流すほど鮮烈に、知っている。  だからこそ、この交渉は確実に成功するのだと、樹は小さく痛む胸に目をつむった。  「自分が被害にあった時と同じ年の女生徒が、河居に襲われてる写真。それを見たせいで、過去の記憶がフラッシュバックした。彼女の傷が開いてしまったんだ。アンタ、また間に合わなかったんだよ」
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