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「きゃあっ、ウソッ……樹くんッ!!」
突然木の陰から現れたヒナに、純人は瞠目(どうもく)した。
ハッと視線を戻すと、倒れた半身を起こした樹が、口に溜まる血をぺっと吐き捨てながら、ぞっとするような狡猾な笑みを浮かべて、純人をひたと見据えてきたのだ。
「……やられた。だから大人しく殴られたのか」
鋭い舌打ちを響かせ、純人は思い切り顔を顰めた。
ヒナの目から見たら、一方的に樹を殴りつけた純人は完全に加害者でしかない。
裏に潜んだ本当の加害者は樹で、彼の奸計に嵌まり被害を受けたのは、凜なのに。
せめて最初から会話を聞いていてくれていたらと、純人は祈るような気持ちでヒナを見遣る。
そして、純人は落胆した。
恐らく、会話自体はほとんど聞いていなかったのだろう。
樹を庇うようにして抱きしめるヒナが、敵意の滲む激しい目で純人を睨んでいたから。
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