Ⅱ ~近所のお姉さん~

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「全くヒナは。絵を描き出したら全くこっちの話聞いてくれないんだから。ママ、たまにしか帰って来れないんだからね。明日からまた大阪だし。ホントにひとりで大丈夫かしら、この子ってば」  小さな子を気に掛けるみたいな心配で心配でたまらないという母の表情に、ヒナはしゅんと項垂れてしまう。  ヒナの家は母子家庭だ。  父はヒナが中学に入ったと同時期に不慮の事故で亡くなってしまった。父の仕事を引き継いだ母が、家計を支えるために週の半分は仕事で大阪に行ってしまう。  そのため、ヒナはひとりぼっちの時間が多かった。  ――――お母さん、また明日から大阪いっちゃうんだ。……寂しいな。 「お母さん。呼んでくれたのに、気づけなくてごめんなさい……」 「全くもう。あ、そうだ。絵と言えば、さっき樹くんのお母様から連絡があってね。樹くんのたっての希望で、どうしてもヒナに絵を教えてもらいたいんですって。ヒナ、家庭教師に抜擢されたわよ」  え、家庭教師?と、ヒナはポカンとなる。 「絵を教えるの? 私が、樹くんに?」 「そう。樹くん、以前クイズ番組に出場して天才ぶりを披露したでしょ? でも、実は絵の才能はからっきしなんですって」
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