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おかしいおかしい、あり得ないとヒナはブンブン頭を振る。
樹はファンタジーな思考を持っていたのかと驚いてしまう。
まだ子供だから? いや、樹に限ってそれはないだろうと考え直す。
彼は他の大人達にも負けないくらいのリアリストだ。
その彼がなぜ、ヒナが妊娠しただの、原因が聖母マリアのように処女受胎をしたからだの、理解不能なことを言いだしたのか。
何が目的でそんな辻褄の合わない話を敢えて持ち出すのか、整合性を保証できない会話を何故今しているのか、樹の思考が理解できずに戸惑ってしまう。
それに、ヒナの妊娠をなぜこれほどまでに喜んでいるのか。
懊悩するヒナの脳裏に、純人の言葉がちらりと過ぎった。
――――ヒナが抱いていた謎が解ける。
純人の言う『謎』が何を示しているのか、ハッと思い当たった。
――――3ヶ月前に罹ったじんましん……。
類と純人は『キスマーク』だとしきりに言っていた。
そして、身に覚えのない不可解な身体の不調。
樹の手に握られた酢コンブに、ヒナは目を移す。
これが、妊娠中に酸っぱいモノを欲しがるという定説からくる勘違いだとしたら。
ヒナはゴクリと喉を鳴らした。
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