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あの時、樹は何もしていないと言い張った。
が、もしかして。
あの夜、やっぱりなにかあった? だから、樹は妊娠の可能性を真っ先に疑ったのだろうか?
そう推測して、ヒナの顔からサーッと血の気が失せてゆく。
夕闇を背に、冷たい風に嬲られながら、絶佳の微笑を浮かべる樹はゾクリとするほどに美しい。けれど、清廉な姿に相反する邪悪な気配に、ヒナの顔が『ムンクの叫び』になる。
「い、樹くん……私、妊娠なんてしてないよ?」
「は? だって酸っぱいモノが欲しいんだろ? 今までヒナは、ゲロ甘なお菓子ばかり食べてたじゃない。急に好みが変わるとか、学校に持ち込むほど身体が欲してるとか、絶対おかしい、普通じゃないね。可能性として、妊娠以外ないんじゃないの?」
絶対コレは妊娠の兆候だと樹は声を弾ませるが、可能性として一番考えられないのが妊娠だとヒナは思う。
これ以上の恥ずかしい誤解は耐えられない。なんの羞恥プレイかと思ってしまう。
ヒナはふるふる肩を小刻みに震わせながら、真っ赤な顔で叫んだ。
「ちっ……、違う違う、違うってば! だって今、生理中だもんっ!」
瞬間、樹の顔がピキッと凍り付いた。
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