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「……あ゛? なに? ボクを騙したの、ヒナ」
すうっと氷の女王も真っ青になるくらいの冷ややかな容貌で、樹はヒナを一瞥する。
ビクッと恐怖でヒナの背が撓(しな)った。
「だまっ、騙すも何も……酢コンブ渡しただけで、なんでそんな意味不明な勘違いするのか分からないよ……なんで!?」
ヒナはおどおどした困惑顔で樹に問う。
樹は「おや?」と顔を顰め、すっと双眸を鋭くした。
「確かにおかしい。もしそうだとしても、ヒナはそこまで思考が及ばないはず。……誰かの入れ知恵……。ヒナ。これ、誰かから貰ったね?」
「え、すみちゃんだけど……」
「で? 彼に何を指示された?」
やはりと言った顔つきで、樹は尋問口調でヒナを問い詰め始める。
「え、指示?」
「これ、身体が欲してるとか言うように指示されたね?」
「言われた……なんでわかったの!?」
目を丸くするヒナに、樹は俯き加減で額を押さえた。
「ふうん、そう。そーなんだぁ」
驚くヒナに、樹は理解したとばかりに身体をくつくつと揺らした。
天使ガブリエルも真っ青になるほどに麗しくも凶悪な微笑を顔に乗せながら、樹はゆっくりとした足取りでヒナに近付いてくる。
「え、なんでそんな怖い顔で近付いてくるの……?」
近付いた分だけヒナの足はじりじりと、怯えたように後退する。
引き攣った薄い笑みがヒナの顔に張り付いてしまって剥がれない。
背中を冷たい汗が伝う。
ヒナの中にある原初の本能が、樹の怒りに反応して今すぐここから逃げろと警告を発していた。
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