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「よくもボクをぬか喜びさせてくれたね? いい度胸してんじゃん。あの男の言葉を疑いもせず聞いたばかりか、このボクを騙すなんて。これはヒドい裏切りだよ。ねえ、ヒナ?」
「ええ!? なんで私の……に、妊娠がそんなに嬉しいのか意味が分かんないよっ! 確かになんですみちゃんそんな変なこと言うんだろって思ったけど……なんで騙されたとか思ったの? 私、ウソなんて言ってないよ? 酢コンブ好きだし、最近のマイブームは茎わかめだけど」
嘘はついていない。が、純人の言うがまま同じ言葉をオウム返ししてしまったことは申し訳なかったと思う。
けれど、たかが酢コンブで樹がここまで喜んだりガッカリしたり、今は視線で射殺されるかもと危惧するほどに、ギラギラとした獣的な怒りを自分に向けてくるのか理解出来ない。全くの謎だった。
「クソッ……タイムリーすぎてムカつくっ!!」
悔しげに吐き捨てる樹の剣呑な声にビクッとする。
――――タイムリー?
ヒナはその言葉が持つ違和感に首を傾げた。
心の片隅に引っかかっていた疑問が、また頭をもたげる。
じんましん騒ぎから3ヶ月。
あの時のじんましんがキスマークだったとして、酔っ払って意識のない間に何かあったとしたら。
そう考えた時、今の樹の反応が怖すぎた。
あの日何があったか、今の彼の言動が全てを物語っているようで、ヒナの背がゾーッと凍る。
疑惑を深めるヒナに、樹はハッと目をみはり、そして、にっこりと完璧な笑みを顔に貼り付けた。
「ゴメンね、驚かせて。どうやらボクの勘違いだったみたい。でも、安心していいからね。この先、もしもヒナが処女受胎しちゃっても、ボクはヒナの子供なら、全身全霊で愛することが出来るから」
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