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「……ヒナ、なんで逃げる? ボクが悪魔でもケダモノでも、ヒナは変わらず好きでいてくれるんだよね?」
ザリ、ザリ、と、ヒナにゆっくり近付く砂利の音と、樹の唇から漏れる含み笑いに、緊張が高まる。
「……すす、好きだけど、でも、ちょっと不安になってきたかも……。ね、ねえ、樹くん。本当のこと答えて。あの日――――やっぱり私に何かしたんじゃない?」
怯えに縮み上がった舌の上で、言葉を転がすようにしながらヒナは問うた。
瞬間、彼は目を丸くして、
「だーかーらー、何もしてないってばぁ。ボクはヒナの嫌がることはしないよ? やだなぁ、あり得ないよー、ふふっ」
間延びした口調でそう言うと、精巧に作られた人形のように整った樹の容貌に、ドSな嗜虐的微笑が浮かぶ。
彼のまとう雰囲気が、双眸が、天使みたいに清廉で華のごとき相貌とは真逆のものに変化する。まるでホラー映画を見ているように、片唇をつり上げた彼の微笑が、邪悪でドス黒い悪魔的なナニかにゆっくりと変化する。
怖すぎるっ! と、目に涙を溜めながら、ヒナは直立不動で固まってしまう。
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