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「ねえねえ、君はだれ? この近くに住んでるの? ヒナはね、あそこの大きなマンションに住んでるの。先週ね、ひっこしてきたんだよ」
指さした先には、デンとそびえる50階建てのタワーマンション。
ヒナはつい先週引っ越してきたばかりだった。
「ボクもあそこのマンションに住んでる」
「そうなんだー。わからないことだらけだから、教えてくれたらうれしい!」
「別にいいけど。アンタ、ヒナって言うの? ……フルネーム教えてよ」
およそ子供らしからぬ笑みを浮かべる彼に、ヒナは幼さを存分に残した満面の笑みで答えた。
「今泉陽菜(いまいずみ ひな)! 3階に住んでてね、小学5年生だよ。川向こうの小学校に通ってるの」
少し舌っ足らずなその声に、彼の目はまた見開かれる。
「……1年か2年生くらいだと思った。ボクは鷹城樹(たかじょういつき)。あのマンションの一番上に住んでる。年は……5歳」
「5歳」の部分は、舌打ち混じりで消え入りそうなほど小さかった。そのどこか納得いかないと言った表情に、
「年長組さんだね! 私ひとりっこだから、弟とか欲しかったんだー! なかよくしてね!」
ヒナが放った「年長さん」の単語に、樹の顔は不機嫌さが一気に増し、双眸が剣呑に据わる。しかし、ヒナは気づかず前歯の欠けた顔でへらりと笑う。
諦めたように大きく嘆息した樹は、ヒナを見上げてニッと意地悪そうに片唇を吊り上げた。
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