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槍玉に挙げられてもものともしない、凜とした樹の姿。
その言葉と態度に、ヒナの中の不安は綺麗に払拭された。
本当は、自分なんかより樹の方が不安だったに違いない。でも、そんなことはおくびにも出さず、『ヒナを泣かせたアイツらのプライド、再起不能になるまでボクがへし折ってやるから。だから、もう泣かないで』と、樹は萎れかけたヒナを真っ先に気遣い鼓舞してくれた、心優しい少年なのだ。
そして収録がはじまると、樹を軽んじた大人達の顔色がみるみる変わっていった。
樹は大人でも分からないような難問を息つく間もなく次々と回答し続け、周囲をどよめかせながら、いつの間にかスタジオの空気は、子供とは思えないほどに冷静かつ堂々とした態度を1ミリも崩さない一人の天才少年に、完全に呑まれてしまっていたのだ。
彼が最終問題に挑んだ時、スタジオ中が固唾を飲んだ。
正解の効果音が流れた時、他の回答者やスタッフ達を含めた全員が、興奮と歓喜の声をスタジオ中に轟かせた。
そうしてまだ若干10歳だった少年が、並み居る大人達を次々と打ち破り、宣言通り見事優勝を果たしたのだった。
もう樹を『ただのガキ』などと揶揄する者は、誰一人としてその場にはいなかった。
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