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『やった! ヒナッ』
感動のあまり号泣するヒナの視界に、樹が嬉しそうな顔でこちらへと駆け寄ってくる姿が映った。
瞬間、ヒナの胸が大きく波打った。
ひらひらと舞い落ちる紙吹雪と歓声の中、満面の笑みを浮かべた彼の姿は、一生忘れられないと記憶となり、今も鮮明にヒナの心に刻まれている。
後日談として、約束の『デート』はヒナが計画し、桜が満開だった近所の公園まで二人でお花見に行くことにしたのだが。
『……初デートなのに……場所が近所の公園ってチョイス、ヒドイ、ヒドすぎる……ヒナに任せるんじゃなかった……』と、樹は愕然とした顔で、フルフル震えながら不満をこぼしていたのだが。
行ってみたら、樹はとても楽しそうに笑ってくれていたから、チョイスはこれでよかったんじゃないかな? と、ヒナはこっそり思うのだった。
懐かしいなあと当時を思い返しながら、ヒナはふふっと頬を緩めた。
「で、どうすんの? 引き受けるの? 家庭教師」
母の言葉に、ヒナの意識はハッと現実に戻ってくる。
「う、うん。お勉強はムリだけど、絵なら……教えてあげられるかな?」
樹くんの役に立てたらいいなぁ。ヒナはそう思い、即答したのだけれど 。
その選択が、彼女を窮地に陥れることになるなんて、この時のヒナには思いも寄らなかった。
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