Ⅱ ~近所のお姉さん~

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 高等部と初等科の分岐点で樹と別れたヒナは、ひとり川沿いの道を揚々と歩いていた時、ふいにポンッと肩を叩かれた。 「はよー今泉ィ」  長めの髪をあちらこちらに跳ねさせて、無精ヒゲを指でぞりぞり触りながら現れた男を見て、ヒナは一気に破顔した。 「あっ、おはよーございます! 河居先生」 「部活今日ないから。職員会議だと。部員らに言っといてくれる?」  欠伸を噛み殺しながら、河居はポケットに突っ込まれてクシャクシャになったタバコを一本取りだし口に咥えた。  まだ25歳な彼は、だらしない格好も手伝っていかにもうらぶれた三十路男にみえてしまう。  そんな河居をヒナは紅潮した顔にキラキラ輝く瞳で見上げ、「伝えときますっ!」元気よく答えた。 「今泉、お前あの絵、出来たんか? ほれ、『太陽とライオン』だっけか?」 「ライオンちがいます、狼です。あともう少しで完成です。美術展のもやっちゃいたいんで、今はそっち優先してます」 「あー、時間まだあるっちゃあるが……美術室一応鍵開けとこっか?」 「いいんですか!? 帰りにちょっと寄ります!」  にこっと天真爛漫な笑みを刷くヒナに、しゃーねーなーと溜め息を吐いた河居は、大きな掌で彼女の頭をくしゃりと撫でた。
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