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元気よく教室の扉を開けたヒナは、ぱたぱたと軽快な足音を響かせながら席につく。
「おはよー、類ちゃん」
後ろの席に座る蓮見類(はすみるい)に、ヒナはニッコリえびす顔で挨拶した。
類とは初等部からの馴染みで仲の良い友達のひとり。
いつも通りニコニコと上機嫌なヒナに、類は疲れたような顔を向けてくる。
「今日もヒナはアホ面だねぇ。『類ちゃん』やめろって言ってんのまだ理解できないかなこのボケ頭はぁ」
爽やかに微笑む眼鏡の奥の双眸が、イラッと細められる。
「え? 類ちゃんなんて言ったの? もっかい言って、ぅあっ」
「だーかーらー、ちゃん付けすんなって言ってんの、聞いとけボケが」
話を聞いていなかったヒナの髪をガシッと掴んだ類は、グシャグシャと両手でかき混ぜる。
ヒナの細い首は、カクカクと折れそうなほど揺らされた。
「痛い痛いっ、類ちゃん髪引っ張らないで、抜けちゃうからっ、すぽーんってむけるからっ」
「はげろ。いっそはげてしまえ」
うにょうにょ跳ねるくせっ毛をせっかく真っ直ぐセットしたのに、類は遠慮無くグシャグシャとかきまわす。綺麗なストレートに見えていたヒナの髪が、類に弄られクセ毛が復活、あっちこっちに飛び跳ねていた。
「ひぃ――――ッ」
「……うるさいよ。ちょっと静かにしてくれない?」
斜め横から上がった注意の声に、真っ先に反応したのは類だった。
「恐ッ! 純人、目が寒気だよ。まとう空気も絶対零度な寒冷前線到来中だよっ。ってか、なんかお前の周りだけ空気が澱んでんだけど! 純人は存在自体が大気汚染なんだけどっ。それになに? 読んでる本が犯罪チックでコワッ!」
「え? 犯罪? なになに? すみちゃん、何読んでんの?」
ひょいとヒナは純人の手元を覗き込む。
そして、タイトルに書かれた文字を読み上げた。
「……マインドコントロール?」
「面白いよ。閉塞的な空間に置いた特定の被験者に、長年同じことを繰り返すとね、人間の脳って、それが正しいって思うようになる。記憶のすげ替えや書き換えも可能になる。……興味深いと思わない?」
ふふっと唇に妖しい微笑を浮かべながら、純人は色気の混じる双眸でヒナを捉えた。
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