Ⅱ ~近所のお姉さん~

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「え? 即答? 泊まってもいいの? ってか、ヒナってホント警戒心が皆無だねえ。……それってボクが相手だから?」  目を見開いた樹は、ヒナを捉えながら次第に顔を曇らせてゆく。 「もしかして、ボクって男と思われてない? ……うわ、腹立つ」  聞こえないほどに小さな声でぶつぶつ呟きながら、樹は忌々しげに顔を顰めた。  「なんで怖い顔してんのかな?」と、ヒナはビクビクと樹の顔色を窺ってしまう。  その時、ふとヒナは気が付いた。  ――――あれ? 樹くん、背が伸びた?  交わる視線が、だんだん近くなってきている。  昔はもっと小さくて可愛らしさが前面に出ていた。  でも、今は。  ぷっくりしていた頬も、顎も、スッと細くなって、眸も以前より鋭さが増したというか大人びたというか。  髪の毛もふわふわだったのに、なんだか硬くなったような気もする。  男の子の成長は早いな。そんなふうに感じて、ヒナは少し戸惑いを覚えた。 「……樹くん、おっきくなったねえ」 「あ? なにしみじみオバチャンみたいなセリフ言ってんの? 子供扱いすんな。背なんてヒナとそんな変わんないじゃない。見てろ、ヒナなんてすぐに追い超してやる。そうしたら」  樹はそこで言葉を句切り、ニッと意味ありげな顔で嗤う。  まるで獲物を狙う猛禽類みたいな眸でじっと見つめられて、ヒナはギクリと身体を強ばらせる。  まだ幼いと思っていたのに、日に日に大人へと近付く樹はヒナを激しく動揺させてしまう。 「な、な、なんでそんな顔で私を見るの?」 「ふふっ。……なんでだと思う?」  二人の距離はそのままなのに、逃げられないような、追い詰められたような、そんな心地になる。 「うぅ、なんか怖いから、聞くの止めておく」  喉の奥から絞るようにして、ヒナはもごもごと口の中で呟く。 「ふふっ。今はまだ、その方がいいかもね」  樹の緩んだ口元には、二心を抱く悪者じみた笑みが浮かんでいた。
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