Ⅱ ~近所のお姉さん~

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「おじゃましまーす」  ヒナの家に到着した樹は、勝手知ったるといった様子で玄関扉を開けるとさっさと中へ入ってしまう。  樹が勝手に自分の部屋へ入っていくのが目に入り、ヒナは「またか」と苦笑が漏れる。  見られてまずいものなど特にないので、いつも放っておく。で、気が付くと樹はヒナのベッドで眠っていたりするのだ。  眠っていると、大人びた双眸がまぶたで隠されて、無防備な寝顔が見ることが出来る。  幼さが存分に残る彼の寝顔は抱きしめたくなるほどに可愛らしくて、それを見ることがヒナの密かな楽しみだった。  でも、今日は「美術の家庭教師」という使命がある。  樹の寝顔はすごく見たいが、もし寝てしまったら心を鬼にして起こしてやらねばならない。  樹を寝かせないようにヒナは急いでキッチンへと向かい、冷蔵庫から食材を取り出すと、忙しなく晩ご飯を作り始めた。  ヒナが作れるものは簡単なものばかりだけれど、今日は樹がいるから彼の好きなものをごちそうしてあげたい。ウキウキしながらヒナは思った。
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