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「……で、ヒナ。これ、晩ご飯とか言う?」
樹は目の前に置かれた夕食を見て、呆然とヒナに聞く。
「樹くん、小さい頃、大好きだったでしょ?」
にこにこと、やり遂げた感満載なヒナは、お箸を樹の前に置いた。
「うん、覚えててくれてありがとう。でもね、これを好きだったのって、ほんっとうに小さい頃だけどね?」
「嬉しい?」
「……嬉しい、のかな?」
樹の目の前にはホットケーキがドンッと置かれていた。
しかも、ハンパない大きさだ。
アメリカンサイズなそれには、滴るほどにメイプルシロップがかけられており、横には生クリームまで添えられている。
ちなみに、コーヒーは断固ブラック派な樹は、甘いものがあまり得意ではない。
うっそりと笑みながら、目の前のそれを凝視する。
ふと目に入ったものに、樹は目が点になった。
キティな子猫がプリントされた、なんともファンシーな箸。
「……まさか箸で食べろと?」
ポツリと呟いた瞬間、樹の肩がふるふると震えだす。
「いただきまーす。樹くん、食べたら一緒に絵を描こうね」
「ん。くくっ」
樹はヒナから顔を背けて、口を押さえている。
ホットケーキには手をつけず、身体を小刻みに震わせ続ける樹に、ヒナは「どうしたの?」と不安げな顔を向けた。
「あっははっ! ほんとにヒナは面白いッ! 箸で、箸でホットケーキ喰えってか!」
言いながら、樹はお腹を抱えて爆笑している。
樹は涙の滲む目で、ちらとヒナを見た。
箸でホットケーキを食べていた。
「あっはははッ!」
「え? なんで笑ってるの?」
箸を口に咥えながら、ヒナはきょとんと樹を見つめる。
「あ、行儀悪いな。咥え箸」
笑いながらも、ビシッと樹の注意が入った。
「は、……ご、ごめんなさい」
ヒナはしゅんと箸を口から離す。
「全く。どっちが年上か分からないね」
ごもっともだと、ヒナは肩をすくめて小さくなった。
「でも、ヒナはそのままでいい。――――そのままがいい」
そう繰り返し、樹は嬉しそうににっこり微笑むと、ヒナと一緒に箸でホットケーキを食べ始めた。
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