Ⅱ ~近所のお姉さん~

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「……で、ヒナ。これ、晩ご飯とか言う?」  樹は目の前に置かれた夕食を見て、呆然とヒナに聞く。 「樹くん、小さい頃、大好きだったでしょ?」  にこにこと、やり遂げた感満載なヒナは、お箸を樹の前に置いた。 「うん、覚えててくれてありがとう。でもね、これを好きだったのって、ほんっとうに小さい頃だけどね?」 「嬉しい?」 「……嬉しい、のかな?」  樹の目の前にはホットケーキがドンッと置かれていた。  しかも、ハンパない大きさだ。  アメリカンサイズなそれには、滴るほどにメイプルシロップがかけられており、横には生クリームまで添えられている。  ちなみに、コーヒーは断固ブラック派な樹は、甘いものがあまり得意ではない。  うっそりと笑みながら、目の前のそれを凝視する。  ふと目に入ったものに、樹は目が点になった。  キティな子猫がプリントされた、なんともファンシーな箸。 「……まさか箸で食べろと?」  ポツリと呟いた瞬間、樹の肩がふるふると震えだす。 「いただきまーす。樹くん、食べたら一緒に絵を描こうね」 「ん。くくっ」  樹はヒナから顔を背けて、口を押さえている。  ホットケーキには手をつけず、身体を小刻みに震わせ続ける樹に、ヒナは「どうしたの?」と不安げな顔を向けた。 「あっははっ! ほんとにヒナは面白いッ! 箸で、箸でホットケーキ喰えってか!」  言いながら、樹はお腹を抱えて爆笑している。  樹は涙の滲む目で、ちらとヒナを見た。  箸でホットケーキを食べていた。 「あっはははッ!」 「え? なんで笑ってるの?」  箸を口に咥えながら、ヒナはきょとんと樹を見つめる。 「あ、行儀悪いな。咥え箸」  笑いながらも、ビシッと樹の注意が入った。 「は、……ご、ごめんなさい」  ヒナはしゅんと箸を口から離す。 「全く。どっちが年上か分からないね」  ごもっともだと、ヒナは肩をすくめて小さくなった。 「でも、ヒナはそのままでいい。――――そのままがいい」  そう繰り返し、樹は嬉しそうににっこり微笑むと、ヒナと一緒に箸でホットケーキを食べ始めた。
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