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「……アイツ、あの美術教師。邪魔だね」
ヒナに、いや、――――ヒナが。
あの男にすり寄るように、甘えるようにしていた。
樹の目にはそんなふうに映った。
それが耐えがたいほどに忌々しい。
いっそ、ヒナに殺意を覚えるほどだった。
早急に排除しなければ。
その策は、樹の中でもうすでに考えてある。
新しく樹のクラスに赴任してきた女教師。
あの女に贄(にえ)になってもらうつもりだった。
樹はニヤリとほくそ笑む。
ヒナが興味を持つ全てのものが、樹にとっては不快だった。
だから、不快に感じるモノは目の前から速やかに排除してやると決めた。
「ねえヒナ、誰も好きにならないで」
彼女の耳に樹の言葉は届いていない。だから、秘めた想いが素直に口から溢れ出す。
「……可愛いヒナ。ボクのヒナ」
ぷっくりとしたヒナの唇に、指先を伸ばしてそっと触れてみる。
――――ここに、触れたい。
今は集中しているから、絶対に気付かれない。
そう思ったら、理性など一瞬で消し滓(かす)のように吹き飛んでしまった。
本能が命じるままヒナに顔を寄せた時、彼女の肩がぴくんと揺れた。
「――――出来た!!」
ヒナの瞳に浮かぶのは、歓喜。
樹の瞳に浮かぶのは、落胆。
樹はがっくりと肩を落とした。
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