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「樹くん、こんなんで勉強なったかな?」
美術を教えてあげると言いながら、結局ヒナは彼に何も教えてはいなかった。
不安げな面持ちで、ヒナは樹をじっと見る。
「うん、勉強になったよ。でも、あと5分くらい作業に没頭してくれててもよかったんだけどな」
大仰に歎息しながら名残惜しそうな口調で、樹はそんなことを言ってくる。
「でも、ほっといたら私、朝までやっちゃうから」
「……それでもよかったのに」
ぼそりと呟いた樹の悔しげな声は、生憎小さすぎてヒナには届かなかった。
「ヒナ、絵の具だらけになってるよ、カラダ」
「うん、終わったらいつもこう。汚いんだ」
手がドロドロになっている。
足にも絵の具が飛んでしまって、もはやヒナがキャンパス状態だった。
「ヒナ、シャワー入ってきたら」
「そうだね。ほっといたら落ちなくなるもんね」
「一緒に入ろうね」
樹はさらりと笑顔で誘う。
あまりにもナチュラルだったので、ヒナは思わず頷いてしまった。
「うん。そうだね、って、え?」
「昔もよく一緒に入ったよね。懐かしいな」
遠い目をしながら頬を染める樹に、ヒナの眉間には皺が寄る。
「うん、そ、だけど」
「なに? ボク、まだコドモだから、それくらいイイよね?」
いつもは子供だと言ったら怒髪天を突くくせに。
自分の都合のいいように子供と大人を使い分ける調子のいい樹に、ヒナは困惑する。
どうすればいいのかと思案顔でヒナは悩み出した。
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