Ⅱ ~近所のお姉さん~

20/25

2643人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「樹くん、こんなんで勉強なったかな?」  美術を教えてあげると言いながら、結局ヒナは彼に何も教えてはいなかった。  不安げな面持ちで、ヒナは樹をじっと見る。 「うん、勉強になったよ。でも、あと5分くらい作業に没頭してくれててもよかったんだけどな」  大仰に歎息しながら名残惜しそうな口調で、樹はそんなことを言ってくる。 「でも、ほっといたら私、朝までやっちゃうから」 「……それでもよかったのに」  ぼそりと呟いた樹の悔しげな声は、生憎小さすぎてヒナには届かなかった。 「ヒナ、絵の具だらけになってるよ、カラダ」 「うん、終わったらいつもこう。汚いんだ」  手がドロドロになっている。  足にも絵の具が飛んでしまって、もはやヒナがキャンパス状態だった。 「ヒナ、シャワー入ってきたら」 「そうだね。ほっといたら落ちなくなるもんね」 「一緒に入ろうね」  樹はさらりと笑顔で誘う。  あまりにもナチュラルだったので、ヒナは思わず頷いてしまった。 「うん。そうだね、って、え?」 「昔もよく一緒に入ったよね。懐かしいな」  遠い目をしながら頬を染める樹に、ヒナの眉間には皺が寄る。 「うん、そ、だけど」 「なに? ボク、まだコドモだから、それくらいイイよね?」  いつもは子供だと言ったら怒髪天を突くくせに。  自分の都合のいいように子供と大人を使い分ける調子のいい樹に、ヒナは困惑する。  どうすればいいのかと思案顔でヒナは悩み出した。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2643人が本棚に入れています
本棚に追加