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「ヒナ、なに難しい顔してんのさ。あれ? もしかしてヒナは、ボクのこと『男』として意識してくれてるとか? だから一緒にお風呂入ってくれないの?」
にやっと人の悪い笑みを浮かべる樹に、ヒナの思考は許容範囲を超えてしまい、金魚のように口をパクパクと喘がせてしまう。
「さ、お風呂入ろっか」
すっと立ち上がり、樹は「さあ行こう」と手を差し出してくる。
ヒナは椅子の上で仰け反った。
「ヒナ、お風呂一緒に入ろって言ったら、うんって言ったじゃない。ヒナは嘘つかないもんね。さ、行こ」
にっこりと爽やかに笑む樹に、ヒナはぶんぶん頭を振りまくる。
唇に笑みを吐いたまま、樹のこめかみにはイラッと血管が浮いた。
「おいで?」
スッと差し出された樹の手を取れるはずもない。
アワアワと挙動不審になりながら、ヒナは精一杯樹の気を逸らそうと躍起になる。
「さ、先に入って? 私、後から入るから。ね? ね!?」
「……ね? じゃねーよ。ヒナ、一緒に入るって言ったろ? 幼気(いたいけ)な子供に嘘つく気? オトナの嘘は成長期の子供をひどく傷つけるんだよ。大人の汚い嘘を貫き通してボクを傷つけるか、誠意を見せて潔く一緒に入るか。さあ答えろ。入るか入らないか。どっち!?」
一気にまくし立て決断を迫る樹に、ヒナは考える間もなく白旗を揚げた。
「ごめんなさい! 樹くんもうおっきいから、む、むりです! いろいろ、ホント、むりっ、適当に返事してごめんなさいっ!!」
「うん、ボク、もうイロイロと大っきいからね。ヒナ、ビックリしちゃうかもね。でも、ヒナは優しいし嘘つかないってコト、ボクはちゃーんと知ってるから。あ、大丈夫だからね。ボクも優しいから。ひとりで入るのが『ムリ』なら、ボクが優しーく、すみずみまでぜーんぶ洗ってあげるから。……ふふっ」
「仕方ないなあ」とヒナの言葉を曲解した樹は、満面の笑みを浮かべてそんなことを言ってくる。
え? と蒼白になるヒナの腕を掴むと、樹は及び腰になる彼女を脱衣所まで引き摺って行く。
そして、「きゃ――――っ」と生命の危機を感じるほどの悲鳴を轟かせたヒナを、樹はさっさと脱衣所へ押し込めてしまった。
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