Ⅲ ~天使な悪魔~

2/11

2643人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
「だってだって、」  ――――挨拶のキスなんて日本文化にはないし、弟みたいに思ってる樹くんとキスなんて……そんなのもってのほかだよ。  消え入りそうなほどに小さな声で、まごつきながら呟く。  ヒナの主張が聞こえなかったのか、樹は「ん?」と首を倒した。  うぅ……と懊悩の声を発し、ヒナは顔をさらに紅潮させて俯いてしまう。 「そんなの、恥ずかしいよ。……恥ずかしすぎて……ムリ」  先ほどよりも頑張って声を出し、ヒナは何とか答えた。  それを聞いた樹は、眸に喜色を滲ませて浮き立った。 「ボクにハダカ見られて、キスされて、恥ずかしいって思う感情。本当にボクのことを『子供』だと思っていたら、そんなふうには思わないはずだよ。それは今までなかった感情だよね。でも、今は恥ずかしい? それって、ボクのことを弟以前に、『男』として認識しだしたってことじゃない?」  樹の言葉に、ヒナはハッとする。  そうなのだろうか。  まだ12歳の樹を『男』として意識しだしたから、あれほどまでに恥ずかしくて拒絶してしまったのだろうか。  ――――もし樹が血の繋がった本当の弟だったら?  そう考えた時、まだ12歳の弟と一緒にお風呂に入ることも、戯れのキスも、ここまで悩まない気がする。  だからといって、樹を『男』として見ているのかと問われたら、それは何か違うような気もする。  考えがまとまらない。明確な答えが出てこない。  ヒナはほとほと困ったという風に頭を抱え込んだ。 「そ、なの? わからない……でも、樹くんはまだ12歳だし、それはありえないんじゃ、ないかな?」  ヒナは思案顔で答えた。  今わかることはそれだけだった。  だってそれは、おかしい感情だと思ったから。  確かに樹は体格も他の小学生と比べても大きいし、思考も大人びているけれど、でも、ヒナにとってはやはり弟という認識しか持ち得ない。  今までの関係がそれ以上に発展する、変わってしまうなんてことは、ヒナには想像も出来なかった。  首をひねったまま、ヒナはまた考えに沈み込む。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2643人が本棚に入れています
本棚に追加