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「だってだって、」
――――挨拶のキスなんて日本文化にはないし、弟みたいに思ってる樹くんとキスなんて……そんなのもってのほかだよ。
消え入りそうなほどに小さな声で、まごつきながら呟く。
ヒナの主張が聞こえなかったのか、樹は「ん?」と首を倒した。
うぅ……と懊悩の声を発し、ヒナは顔をさらに紅潮させて俯いてしまう。
「そんなの、恥ずかしいよ。……恥ずかしすぎて……ムリ」
先ほどよりも頑張って声を出し、ヒナは何とか答えた。
それを聞いた樹は、眸に喜色を滲ませて浮き立った。
「ボクにハダカ見られて、キスされて、恥ずかしいって思う感情。本当にボクのことを『子供』だと思っていたら、そんなふうには思わないはずだよ。それは今までなかった感情だよね。でも、今は恥ずかしい? それって、ボクのことを弟以前に、『男』として認識しだしたってことじゃない?」
樹の言葉に、ヒナはハッとする。
そうなのだろうか。
まだ12歳の樹を『男』として意識しだしたから、あれほどまでに恥ずかしくて拒絶してしまったのだろうか。
――――もし樹が血の繋がった本当の弟だったら?
そう考えた時、まだ12歳の弟と一緒にお風呂に入ることも、戯れのキスも、ここまで悩まない気がする。
だからといって、樹を『男』として見ているのかと問われたら、それは何か違うような気もする。
考えがまとまらない。明確な答えが出てこない。
ヒナはほとほと困ったという風に頭を抱え込んだ。
「そ、なの? わからない……でも、樹くんはまだ12歳だし、それはありえないんじゃ、ないかな?」
ヒナは思案顔で答えた。
今わかることはそれだけだった。
だってそれは、おかしい感情だと思ったから。
確かに樹は体格も他の小学生と比べても大きいし、思考も大人びているけれど、でも、ヒナにとってはやはり弟という認識しか持ち得ない。
今までの関係がそれ以上に発展する、変わってしまうなんてことは、ヒナには想像も出来なかった。
首をひねったまま、ヒナはまた考えに沈み込む。
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