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傲岸に、妖艶に、樹は微笑む。
ヒナは目を瞬かせた。
「そん、な、いつき、くん……? あ、あれ?」
心臓の鼓動が耳に痛いほど響いてくる。
言葉すらうまく出てこない今の状況に、ヒナの頭には疑問符が無数に舞い散る。
「目眩する? だって今、ヒナの頸動脈、ボク押さえてるからね」
「け?」
「わかんないか。ヒナはこのまま、オチるよ。――――今の会話は、全て夢」
ささめくように耳元へと落とされるセリフ。
――――夢? これは夢だったの?
「う、ぁ?」
視界に掛かる紗が濃くなってゆく。まるで幕引きの緞帳(どんちょう)が下ろされるみたいに、目の前が暗転する。
「おやすみ、ヒナ」
くすりと嗤う気配。
ヒナの身体からくたりと力が抜けて、瞼が落ちた。
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