Ⅲ ~天使な悪魔~

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 沈黙する携帯を机に置いて、再びヒナへと振り返る。  くたりと弛緩するヒナの頬へと樹は手を伸ばした。 「ホント、あんまりボクを煽らないで欲しいな」  樹には自覚があった。  自分は少し、普通とは違う感覚を持っていると。  欲しいと思ったものは、どんなことをしても手に入れたい。  例えそれが、愛した原形を留めていなくても構わないほどに。 「さもないと、歯止めが聞かなくなる」  指先でヒナの唇を辿る。這わせた指先にクッと力を込め、樹は彼女に顔を寄せた。  ヒナの唇からこぼれた白い歯に目を奪われる。  樹はさらに顔を寄せると、彼女の口腔に注ぎ込むようにして言の葉を紡いだ。 「ねえ、ヒナ。キミを壊しちゃってもいい?」  自分から遠ざかろうとするヒナを衝動的に壊したくなる。  でも、本当は護りたい。  相反する思いが樹の中で鬩(せめ)ぎ合う。  樹がこぼした偽りない本心は、唇が合わさる濡れた音と共に、誰の耳にも届くことなく闇に解(ほど)けた。
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