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沈黙する携帯を机に置いて、再びヒナへと振り返る。
くたりと弛緩するヒナの頬へと樹は手を伸ばした。
「ホント、あんまりボクを煽らないで欲しいな」
樹には自覚があった。
自分は少し、普通とは違う感覚を持っていると。
欲しいと思ったものは、どんなことをしても手に入れたい。
例えそれが、愛した原形を留めていなくても構わないほどに。
「さもないと、歯止めが聞かなくなる」
指先でヒナの唇を辿る。這わせた指先にクッと力を込め、樹は彼女に顔を寄せた。
ヒナの唇からこぼれた白い歯に目を奪われる。
樹はさらに顔を寄せると、彼女の口腔に注ぎ込むようにして言の葉を紡いだ。
「ねえ、ヒナ。キミを壊しちゃってもいい?」
自分から遠ざかろうとするヒナを衝動的に壊したくなる。
でも、本当は護りたい。
相反する思いが樹の中で鬩(せめ)ぎ合う。
樹がこぼした偽りない本心は、唇が合わさる濡れた音と共に、誰の耳にも届くことなく闇に解(ほど)けた。
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