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逃げを打つヒナの身体を逃がすまいとするように、樹の拘束する力がギュウッと強まる。
「ヒナに10説明しても、理解してもらえるのは、きっと1か2くらいなんだろうな」
ヒナのお腹に頬を押しつけたまま、樹は切ない溜息を零す。
「あっ、今バカにしたでしょ!? 樹くん! 私、ちゃんと昨日のこと、覚えてるんだからね! キキ、キスとか、お風呂で水かけた! も、すっごい怒ってるんだから!」
ヒナは、堪忍袋の緒が切れた! と柳眉を逆立て口をへの字に曲げて、「こんなに怒ってます」と全身で怒りを体現する。
そして、抱き潰さんばかりにしがみつく樹をキッと睨んだ。
「は? なに、寝ぼけてんの? 夢でも見たんじゃない?」
怒り心頭なヒナを、「ボク知らない」とばかりに飄々とした顔で樹は答える。
「え、夢?」
ん? と小首を傾げて、ヒナは昨夜のことを思い返してみる。
「そ。夢、夢。昨夜は何もなかったよ?」
ヒナのお腹の上でうっとりと瞼を落とした樹は、もう話は終わりだとおざなりに答えた。
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