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『昨日の事なんて知ーらない』といった樹の態度を見て、ヒナはとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「夢と違う! 覚えてるし! 誤魔化されないんだから! それに、私のファーストキキキスまで……絶対に許さないんだから!!」
刹那、チッとお腹の上で舌打ちが響く。
頬だけでなく顔全体、耳、さらには鎖骨部分までトマトのように色を染めて、ヒナは怒りを露わにする。
「で?」
ふるふる震えるヒナのお腹に唇を埋めるようにして、樹は問う。
「は? え、え?」
「怒ったヒナはどうすんの? 昔みたいにゼッコーとか言いだすの?」
お腹の上で話されたら、振動が直接伝わってくすぐったい。
ゾクゾクして全身の産毛が総毛立つ。
恥ずかしげに視線を彷徨わせながら、ヒナは小さく身動いだ。
「そ、そう! 樹くんとは絶交! 美術の家庭教師もしないし、一緒に学校も行かない! ちゃんと反省して、」
「ゴメンナサイッ。反省してる! ヒナのファーストキス奪っちゃってゴメンナサイ! 今度からはちゃんと断りを入れてからスル。無断ではしない、と思う。だから、ボクを避けるようなこと言わないで?」
ヒナの言葉に被せるようにして、樹は口早に謝り倒す。
予想外な素直な反応に、ヒナの方が言葉を失ってしまう。
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