Ⅳ ~揺れる想い~

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「ホント、反省してる。怖がらせてごめんね? も、怖がらせるようなことしないから」  大きな目にウルウルと涙を溜めて、艶やかに濡れる唇をきゅっと噛み締めて、樹は必死の形相でヒナに縋った。  瞬きひとつで樹の目尻からは大粒の涙がポロリとしたたり落ちてゆく。 「えっ、そんなっ、うそ、泣かないで泣かないで、泣かせるつもりなんてなかったんだよ、ゴメンね……。ホントはそんなに怒ってないんだ、びっくりしただけで、……樹くん、泣かないで、大っきな声だしてごめんね」  自分にしがみついてしくしく泣き伏す樹を、ヒナはオロオロしながら一生懸命なだめた。 「……家庭教師、イヤとか言わない?」 「言わないよ、大丈夫、ちゃんと最後まで責任もって教えてあげるから。――――ゴメンね、もう、泣かないで」  ヒナこそが泣きそうな顔をして言い募る。 「……責任もって、『最後』まで? ふふっ、嬉しいな」  樹は頬に涙を散らせながら、いとけなく小首を傾げ、天使のような可愛らしい仕草でにこりと微笑んだ。  ホッと胸をなで下ろしたヒナは、樹の頭をよしよしと撫でてあげる。  陶然とする樹は、されるがまま。 「あ、お腹空いたよね? ごめんね、すぐに朝ご飯用意するから!」  その声に、樹はヒナへの拘束をしぶしぶ解いた。  ベッドから飛び起きたヒナは、顔をこれ以上ないほどに紅潮させたまま、キッチンへと慌てて走り去ってゆく。  樹はヒナがいなくなったベッドへ俯せになり、彼女がわたわたと慌てる姿をじっと眺めた。 「ホント、ちょろいなあ。たまんない。カワイーったらないよ」  蕩けるような甘い顔で、樹はまだベッドに残るヒナの残り香を楽しみながら、クスクスと愉しげに笑み崩れた。  エプロンを掛けながらキッチンに立つヒナには、樹が今、自分にどんな視線を向けているのか、知る由もなかった。
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